瓶一本の安穏

お客さん、すみませんがひとつ、

届けものをしてきていただけませんか？

実は昨晩、クリスタリウムに到着したばかりのお客さんに、

酒精の強い蒸留酒を頼まれましてね。

明日が仕入れだと伝えたら、それでいいから届けてくれと。

息も絶え絶えな様子でここに来たと思ったら、

麦酒を何杯も飲んでいかれたんですよ。

チップもかなりの額をいただきました。

どうも心配で……手が離せない私の代わりに、

その方に蒸留酒を届けてきていただけませんか？

件のお客さんは、

「カテナリー居住館」に宿泊されているはずです。

管理人の方に酒を渡しつつ、様子も聞いてきてください。

肝心の酒は、ムジカ・ユニバーサリスにいる、

「エイディス」から受け取ってください。

よろしくお願いいたしますね。

話は聞いています、こちらが「強烈な蒸留酒」です。

たしか、その酒……カテナリー居住館にいる、

お客さんからの注文でしたよね？

それでしたら、「カテナリー居住館の管理人」に手渡せば、

届けてもらえることでしょう。

ご利用、ありがとうございました。

おや、何か用かな？

ふむ、なるほど……。

事情はわかった、私が彼に届けておこう。

その酒を渡してもらえるだろうか？

昨晩の彼がどうだったかって？

そりゃあ、ひどいありさまだったよ……

廊下にまで、うめき声が聞こえてきてな。

あの様子だと「溢れて」しまったのかもしれないな……

このままでは、じきに罪喰いに……

おっと、すまない。

ともかく酒を届けてくれてありがとう。

必ず本人に渡しておくから、「ダールフォート」に伝えてくれ。

そうですか、彼は「溢れて」しまったのですね……。

ああ、「溢れる」というのは、

光に蝕まれ、変わり始めてしまったことの隠語です。

苦しみの果てにどうなるか……

みなまで言わずとも、お客さんもおわかりでしょう？

わざわざ届けてくださって、ありがとうございました。

あの酒が、きっと彼の助けになることでしょう。